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高知地方裁判所 昭和38年(レ)14号 判決 1963年11月13日

控訴人 門田福寿

右訴訟代理人弁護士 徳弘寿男

被控訴人 森本繁行

右訴訟代理人弁護士 宇野秀義

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人に対し、四万七、七七〇円およびこれに対する昭和三六年一一月二三日から右完済に至るまで年五分の割合の金員の支払いをせよ。

控訴人のその余の請求は棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、控訴人が、徳原誠一との間の高知地方法務局所属公証人大野国光作成昭和三四年登簿第一五、一八五号、同第一五、一八六号の各金員貸借契約公正証書の執行力ある正本にもとづき、昭和三五年三月一九日右徳原に対し、高知地方裁判所執行吏をして別紙第一目録記載の物件に対して差押をなさしめたところ、被控訴人が、右徳原に対する貸金債権三五万円を有し、これの代物弁済として右差押にかかる物件を昭和三四年一二月一日に取得し、その引き渡しを受けていると主張し、控訴人に対して、昭和三五年三月一九日第三者異議の訴を高知地方裁判所へ提起する(同裁判所昭和三五年(ワ)第一三一号)とともに、強制執行停止の申請をなし(同裁判所同年(モ)第一七八号)、同裁判所は右申請を容れて右強制執行を停止する旨の決定をなしてこれを停止せしめたこと、右第三者異議の訴は、同裁判所においては控訴人敗訴となつたが、控訴人の控訴により高松高等裁判所においては(同裁判所同年(ネ)第二七九号)控訴人が勝訴し、該判決が確定したことは、いずれも当事者間に争がない。

二、≪証拠省略≫によると(但し、甲第七号証の一、二の各記載中、後記の信用しない部分を除く。)、つぎのような事実が認められる。

(一)  被控訴人と徳原との間に締結された前説示の代物弁済契約は、徳原所有の商品および営業品(徳原は当時刃物商を営んでいた)の一切を目的としており、その価格は約七〇万円であつたが、右代物弁済を受けた被控訴人の債権額はその半額の三五万円にすぎないこと。

(二)  右代物弁済契約と同時に、その目的物件のうち別紙目録記載の一ないし六の物件を除くその余の物件を徳原において委託販売し、その販売代金を毎月末日に被控訴人に支払うとの契約がなされ、徳原は昭和三五年七月七日頃までの間に約五〇万円相当の販売をしたにもかかわらず、右販売代金を被控訴人に支払つていないばかりでなく、被控訴人からもその請求がなされていないこと。

(三)  被控訴人と徳原との間の右の貸借、代物弁済および委託販売契約は、いずれも野町虎吉の斡旋により成立したものであるが、控訴人の徳原に対する前説示の執行債権は、徳原を連帯保証人として右虎吉の野町晋一に対し貸し付けたものであり、控訴人が徳原に対する前説示の強制執行を委任するため、昭和三四年一一月九日公証人役場において執行文の付与を受けての帰途、右晋一方に立ち寄つた際、右虎吉が控訴人に対し「わしが昭和三四年一二月一五日までに金をこしらえるから待つてくれ、ただでは君の顔も立つまいから云々」と言つて五、〇〇〇円を交付し、その後右強制執行に至るまで何ら支払いがなされない間に、その直後の同年一二月末日に右の代物弁済契約が締結されていることおよび右虎吉は、同月中旬頃公証人役場において、右の公正証書原本を閲覧していること。

(四)  被控訴人は、その後においても徳原に対する右三五万円の貸金債権を有するものと主張していること。

以上(一)ないし(四)の各事実によると、右被控訴人と徳原との間に締結された代物弁済契約は、右控訴人の徳原に対する強制執行を免れるためになされた通謀虚偽表示であると認めるを相当とする。右の認定に反する前顕甲第七号証の一、二の各記載部分は当裁判所の信用しないところであり、他に右の認定を左右するに足りる証拠はない。そうすると、右の代物弁済契約は無効というべく、被控訴人は右通謀虚偽表示にもとづき前説示の第三者異議の訴を提起したものというべきであるから(なお、被控訴人は、被控訴人が右第三者異議の訴につき第一審において勝訴していることを以て右の過失さえもなかつたものであると主張しているが、成立に争のない甲第二号証によると、控訴人は右第一審において何らの主張、立証もなさず単に被控訴人の所有権を否認していたにすぎないことが認められるので、これを以て被控訴人の右過失さえもなかつたとの事由とすることはできない。)、右被控訴人の第三者異議の訴の提起は訴権の濫用であり、これによつて控訴人に蒙らしめた損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

三、≪証拠省略≫によると、つぎのような事実が認められる。

(一)  控訴人は、前説示の第三者異議の訴につき第一審において敗訴判決を受けて後、昭和三五年八月九日、弁護士島崎鋭次郎に対し控訴提起の是非について相談したところ、同弁護士は右事件の証人尋問調書の謄写とその鑑定をしたが、健康上の理由を以てこれが受任を断つた。そこで、控訴人は同弁護士に対し、右の謄写料、鑑定料の合計二、〇〇〇円を支払つた。

(二)  控訴人は、ついで弁護士中平博文に対しその頃、右同様の相談をしたところ、同弁護士もこれが鑑定はしたものの、多忙の理由を以てこれが受任を拒絶した。そこで、控訴人は同弁護士に対し右の鑑定料一、〇〇〇円を支払つた。

(三)  さらに控訴人は、弁護士山口春一に対しその頃、右同様の相談をしたところ、同弁護士も右の鑑定をしたうえで、高松弁護士会所属の弁護士に訴訟委任することを勧めて、自からこれを受任することを拒絶した。そこで、控訴人は同弁護士に対し右の鑑定料一、〇〇〇円を支払つた。

(四)  そこで、控訴人は高松弁護士会所属弁護士堀耕作に訴訟委任をすることとし、同年一〇月一〇日国鉄高知駅から高松行きの列車に乗車したものの、三等は混雑をきわめていたため、二等に乗り換えて堀弁護士方に行つたため往路の旅費八九〇円を要したこと、同日は堀弁護士が急用のため直ちに訴訟委任ができず午後四時頃になつてようやく面会できて訴訟委任をしたものの、時間が遅くなつたため高松市において宿泊し、その料金は一、二合の晩酌代等の飲食料を含めて合計二、〇〇〇円であつたこと、高松市から高知市への復路も国鉄高松駅から列車に乗車したが、往路の混雑を考えて当初から二等に乗車したため八八〇円の旅費を要したこと、控訴人は当時月給五万円の収入があつたこと。

(五)  同月一一日控訴人は堀弁護士に訴訟委任をし、手数料(着手金)として一万五、〇〇〇円を支払い、同時に右事件に要する旅費、日当等の実費金は別途に支払い、成功報酬は二万円支払うとの約定が成立した。

(六)  右事件について高松高等裁判所から高知簡易裁判所に証人尋問の嘱託がなされ(この点は前顕甲第七号証の三により認められる。)これに堀弁護士が病気のため出頭できず、同弁護士の紹介により控訴人は弁護士川添賢治にその立会を依頼し、その手数料として昭和三六年一月二〇日六、〇〇〇円を支払つた。

(七)  前説示のように、右事件は控訴審である高松高等裁判所において控訴人勝訴の判決がなされたため、控訴人は堀弁護士に対し右の約定にもとづいて二万円を成功謝金として昭和三六年八月一三日に支払つた。

以上の認定に反する証拠はない。そして、右(一)ないし(三)、(五)ないし(七)の弁護士に支払つた鑑定料、謄写料、着手金、証人尋問立会手数料、成功報酬等で相当なものは被控訴人において控訴人に対し賠償すべき義務があるものというべきところ、右(一)ないし(三)の各鑑定は前認定のような事情により三回に亘つて求めざるを得なかつたことから相当というべきであり、右(一)ないし(三)、(五)ないし(七)の各金額は、当裁判所に顕著である日本弁護士連合会報酬等基準規程、高知弁護士会弁護士報酬規程、成立に争のない甲第一二号証によつて認められる高松弁護士会弁護士報酬規程にそれぞれ定めるところと対比すると、いずれもその範囲内であり、かつ前認定のような別紙目録記載の物件の価格および第三者異議の訴の経過等諸般の事情からみて不当なものということができないので、いずれも相当額というべきである。また右(四)の旅費については、前認定のような事情から二等に乗らざるを得なかつたものであるから、これも相当というべきであるが、宿泊料については、晩酌等の飲食代金が含まれていてその内訳が明らかでないが、少なくとも右飲食費等を控除した単なる宿泊料だけは相当というべく、その余は不相当であるというべきところ、その額は少なくても右二、〇〇〇円の半額一、〇〇〇円を下らないものと認めるを相当とし、日当については、控訴人は失つた収入の損害を求めるものではない旨主張するところであり、いずれにしても不相当というべきである。よつて、右の相当額は(一)ないし(三)、(五)ないし(七)の合計額に(四)の旅費一、七七〇円、宿泊料一、〇〇〇円を加算した四万七、七七〇円となり、被控訴人は控訴人に対し同額の損害を賠償すべき義務があるものというべきである。

四、以上の次第で、被控訴人は控訴人に対し右の損害金四万七、七七〇円およびこれに対する本件訴状が被控訴人に送達された日の翌日であること本件記録に徴し明白な昭和三六年一一月二三日から右完済に至るまで年五分の割合の遅延損害金の支払をなすべき義務があるものというべきであるから、控訴人の本訴請求は右の限度において理由があるので正当として認容し、その余は失当として棄却すべきところ、これと結論を異にし控訴人の請求を全部棄却した原判決は民事訴訟法第三八六条によりこれを取り消すべく、訴訟費用の負担については同法第八九条、第九二条を適用し、なお仮執行の宣言は相当でないと認めてこれを付さないことにし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 合田得太郎 裁判官 下村幸雄 渡辺昭)

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